前回からの続きです。
まずその相続人の本籍がある役所に確認したところ、病院が発行した死亡診断書が必要とのことでした。ただ原本の必要があると言われました。以前その相続人のパートナーから死亡診断書の写しを頂いていたので、その原本が欲しいと話したところ、そのパートナーと連絡が取れなくなりました。
これには大変困りました。相続人の現地の住所は知っていたのですが、他に現地に協力者がおらず、死亡診断書の原本を手に入れるのは、不可能かとも思いました。そこで以前連絡が取れなくなったパートナーが、相続人に関して日本の大使館員から連絡が来ていることを思い出しました。外務省の任務の中には在外邦人の保護があります。ダメもとで、東京の外務省の邦人保護の部署に電話をかけ、相続人の名前を伝え、折り返しの連絡をお願いしたところ、現地の大使館の職員から連絡がありました。この外務省職員Kさんという方で、事務処理能力が高く、融通が利き、案件に真摯に対応するといったまさしく理想の公僕といったかたで、この方がいなければ今回の件無事に解決できなかったと思います。Kさんもこの方が身寄りのないため対応に困っており、私の電話があって助かったと言っていました。何とかなりそうでよかったですと心の底から安堵しているようでした。
但し、協力者が得られたものの、大使館が全てを処理してくれるわけではありません。現地の財産の処分、遺体の火葬、遺骨をどうするのか、死亡診断書をどう再発行するのかこれらは本来相続人がすべきことであり、大使館員はいろいろと便宜は図ってくれますが、本来は親類等がすべきことです。
そこで費用は掛かるのですが、Kさんに紹介してもらい、この手の作業を代行してくれる会社にお願いし、現地で動いてもらいました。この会社にお願いしたことで遺品の整理等ほとんど問題が解決したのですが、最大の問題は死亡診断書でした。まずは現地の病院に再発行をお願いしたのですが、なぜかできないと言われてしまいました。この点につき、現地の代行業者の交渉が良くなかったのか、その現地では本当に死亡診断書の再発行がむずかしいのか(そんなことはあり得ないとは思うのですが)、いずれにせよ、手に入れることができませんでした。次に日本の本籍地にある役所に死亡診断者の原本がどうしても手に入らないので、死亡診断書の写しとその他書類で戸籍に死亡の事実を記載できないのかといわれましたが、担当者に拒否されてしまいしました。
ところで戸籍法にはこのように書かれています
第八十六条 死亡の届出は、届出義務者が、死亡の事実を知つた日から七日以内(国外で死亡があつたときは、その事実を知つた日から三箇月以内)に、これをしなければならない。
② 届書には、次の事項を記載し、診断書又は検案書を添付しなければならない。
一 死亡の年月日時分及び場所
二 その他法務省令で定める事項
③ やむを得ない事由によつて診断書又は検案書を得ることができないときは、死亡の事実を証すべき書面を以てこれに代えることができる。この場合には、届書に診断書又は検案書を得ることができない事由を記載しなければならない。
今回は③に当たると思いますが、原本はパートナーが所持しております。また本当に病院側が診断書を発行できないのかも疑わしいです。
他に方法がないのならばこの条文を主張するのですが、仕方ないのでパートナーに再度説得を続け、何とかパートナーから診断書の原本を確保することができました。
これにより戸籍に死亡の事実が記載され、無事相続登記を完了することができました。
今回のケースは親類との付き合いがほとんどないまま、海外で亡くなったパターンでかなり特殊なケースです。ただこの方の場合は、居住していたのでそれなりの大都市であったことやその国と日本との交流が盛んなことや相続財産がそれなりにあったことで何とか解決まで持ち込めましたが、これが日本人話者、国の都市や地方、相続財産がなかった場合は解決まで持ち込むのが難しかったと思います。
司法書士松尾孝紀